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ビジネスデータサイエンスの最前線-企業が抱えるデータ活用の壁とその解決策(後編)

産学連携 |

近藤
アカデミックな先生方と連携しながら、企業で先生方の研究を活かす取り組みを広げていきたいと思っています。その際、企業側が気をつけるべき点や心構えがあれば教えてください。

本橋先生
大学と共同研究するメリットは、新しい技術や知識を取り入れられること、それが競争優位にもつながることです。また、優秀な学生や研究者と関われる点も大きな利点です。

ただ、注意すべき点としては、大学と企業では目的が異なることが多いので、最初にしっかりと目的をすり合わせることが重要です。大学は基本的に論文執筆や学会発表などの学術的な成果を目的になることが多く、それが直接企業の実務に結びつかない場合もあります。そのため、研究成果を企業ごとにカスタマイズする作業が必要になることもあります。

また、契約形態にもいくつかのパターンがあります。たとえば、「共同研究」では、研究そのものが目的になりますが、「学術指導」のように、研究とは離れて企業に対するコンサルティングや指導を行うケースもあります。

近藤
例えば国立大学の先生でも、一般企業に対して学術指導をされることがあるそうですね。

本橋先生
はい、例えば、学術的成果を主な目的とするなら共同研究が適していますが、純粋な指導が目的であれば学術指導の形で進めることができます。

近藤
企業が大きくなると、柔軟に目的を変えるのが難しいこともありますが、そういう場合、学術指導として取り組むのも良さそうですね。

本橋先生
はい。また、今はどこの大学も大学発ベンチャーを増やすことがミッションの一つになっているので、研究者が企業と関わる機会が増えています。

近藤
大学発ベンチャーは、先生が自ら立ち上げることも多いのでしょうか?

本橋先生
そうですね。大学発ベンチャーは、学生や卒業生が立ち上げても該当しますが、一番多いのは教員が関与しているケースです。私の場合、知財マネジメントに関する会社を3人の教員が共同で立ち上げました。

近藤
弊社も人材系のビジネスを展開し、研究所などシンクタンクと協力してプロジェクト進めようとしていますが、先生のような研究成果が企業で活用されることが、日本全体にもプラスになりますね。

本橋先生
データサイエンスやAIに関連する起業家は増えていますが、彼らは手法の専門家であることが多いです。実際にデータをビジネスにどう活用するかについては彼らの専門ではないので、そこが我々の会社の強みだと思います。

近藤
その通りですね。多くの企業はAIツールを使ってデータ分析をすることはできますが、どう活用するか、上流の部分を考える人材が不足していますよね。我々もその部分に注力し、コンサルティングファームなどと協力してビジネスモデルを構築しています。

本橋先生
それは私の研究と合っていますね。ぜひお手伝いできればと思います。

天野
私が大学を卒業した2021年には、まだChatGPTのようなAIが広まっていませんでした。ゼミでは論文を読み込むのが主流でしたが、今の大学生はAIを使いこなしていて、すごく有利だと感じます。

本橋先生
そうですね。今の学生は、卒論でもChatGPTを使うことが当たり前になっています。教員も同様に論文の書き方が変わってきました。ChatGPTを使って論文の要約をして、それを参考に一つずつ詳細を読み込んだり、論文の添削をAIにしてもらったりしています。研究者も学生も、こうしたツールを使いこなす知識が必要になっています。
一方で、今の学生は最初からChatGPTを使える環境にいるため、それに依存しすぎてしまう傾向もあります。例えば、研究発表などの資料に難しい言葉があって、それについて質問すると、意味を理解していないことがたまにあります。AIを信頼しすぎず、自分の知識を補完するために使うというバランスが必要です。

天野
信ぴょう性をしっかりと人間が確認することが大事ですね。

近藤
私は昭和の人間なので、図書館で調べることが当たり前でした。大学の図書館で文献を調べていた時代ですね。ただ、今の若い世代は何かを調べる力や、自分で体系化する能力を鍛えるのが逆に難しい面もあると思います。

本橋先生
そうですね。ChatGPTを仮説構築のためのブレインストーミングに使うと、指示した数だけ無限に仮説を提案してくれます。業界についての知識がなければ全ての仮説を正しいと信じてしまいますが、業界の知識があれば、間違った仮説に気付くことができます。一方、「この仮説を検証するにはどうしたらいいか?」と尋ねれば、必要なデータや分析方法を適切に答えてくれます。

さらに、RやPythonで仮説を検証するためのコードや分析結果の解釈も教えてくれるので、分析のハードルも下がっています。このように適切にAIを活用していくことが必要なのかなと思います。

近藤
確かに、プロンプトを書く能力があると良い答えが得られると言われますが、その能力を得るにも経験の積み重ねが必要ですよね。弊社でも、AIを使える人と使えない人がはっきり分かれている気がします。

本橋先生
そうですね、ワードやエクセルなどのオフィスを使うのと同様に、今後は適切にプロンプトを書くスキルが求められるようになると思います。

近藤
新入社員や若手社員の新入社員研修には、AIをビジネスに活用するための教育が組み込まれていますよね。
ただ、AIの出した答えをそのまま書くことなど、やってはいけないこともあると思うんです。そこの倫理的な観点が重要ですね。

本橋先生
AIのアウトプット全てが正しいと信じ込むのではなく、AIに関する正しい知識を持って、AIを効果的に活用できるようになることが大切です。

近藤
その通りですね。基本的な知識を持ちつつ、AIに少しサポートしてもらう感じが理想ですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました!