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AIとデータが変えるマーケティングの進化|前編:データ起点の消費者行動の変化

産学連携 |

当社データサイエンス事業のアドバイザーを務められている西本章宏先生にお話をお伺いいたしました。西本先生は、関西学院大学の教授として「マーケティング戦略」「マーケティングサイエンス」「消費者行動分析」などを専門としてご研究されております。

本インタビューでは消費者行動の変化に伴うマーケティングについてお伺いいたしました。

近藤
早速ですが、西本先生の経歴をお伺いできますでしょうか?

西本先生
関西学院大学商学部でマーケティングを学びました。卒業後もマーケティング職に就きたくご縁があった日産自動車マーケティング本部で広告宣伝活動に携わりました。 その後は研究者という立場からマーケティングをアップデートしていくため、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(通称:慶應ビジネススクール)の博士課程に進学しました。慶應ビジネススクールには第一線で活躍することが期待され企業から派遣される実務家や世界中から学びに来る人がいて、そのような方々とのコミュニケーションを若い頃に体験できたことが、自身の研究スタイルに大きな影響を与えたと思います。

近藤
若い頃にそのような境遇に自身を置かれた経験は大きいですね。

西本先生
はい、話していてレベルの違いに驚きました。その後は小樽商科大学に赴任し、研究者・教育者としてのキャリアをスタートさせました。2年間ほど同大学に在籍した後、関西学院大学からお声がけいただき今に至ります。
関西学院大学では、在外研究の機会もいただき、カリフォルニア大学バークレー校にも留学をさせていただきまして、非常に恵まれたキャリアを歩ませていただいていると感じています。

近藤
ありがとうございます。今でも、実務家の方との交流は多いのでしょうか?

西本先生
実務家の方々との交流は非常に多いです。一緒に勉強する機会も多いですし、講師という立場でセミナーに登壇させていただいたり、会社にお伺いしてマーケティングでキャリアを積みたい20~30代の方たちを中心に研修をさせていただく機会も多いです。

近藤
ビジネスの側面でも研究の成果を活かされていて、研究者として教育者としての鏡だと感じております。

西本先生
ありがとうございます。私自身、研究で積み重ねた知見を社会に活かせる機会をいただけている事に大変有難く思っています。
その他にも、アカデミックな視点からのコンサルテーション(戦略構築)や、最先端の技法を用いた市場調査のご依頼なんかもいただいています。

近藤
企業様に先生ご自身が出向かれて、ご支援しているのでしょうか?

西本先生
はい、私自身が企業様にお伺いしてマーケティング活動をサポートさせていただいています。特定の営利企業に所属しているわけではないですので、非常にニュートラルな立場から最先端のアカデミックの知見を用いて忌憚のないサポートができることも強みです。

近藤
アカデミックな知見が欲しいと言う企業様にとっては、非常に貴重ですね。ありがとうございます。
先生は「消費者行動分析」や「マーケティング戦略」がご専門だと思いますが、最近は事業会社がデータを保有しやすくなってきた背景を受けてそのあたりでマーケティングの変化であったり在り方というのは変化しているのでしょうか。

西本先生
消費者行動に変化があるというよりも、データがあることによってビジネスサイドで下剋上が起こったり、業態転換が起こり始めているなという印象です。「ビックデータ」という言葉が10~15年ほど前に社会に普及して、「21世紀の石油」と言われるくらいビジネスを成長させる資源として注目が集まりましたよね。それが発展してさまざまなビジネスにインパクトを与えている今日なわけですが、私が最近注目しているのは「リテールメディア」です。
例えば、某メーカーがシャンプーを売りたいとなった時に、購買意欲がある消費者に向けてダイレクトにアプローチする場合は、マス広告やインターネット広告に予算を投下するよりも、街中のドラッグストアに設営されているデジタルサイネージ(電子広告板)に出稿する動きが活発になってきました。この広告活動を支えているのが、小売(リテール)が保有している顧客の購買データであって、そのデータを起点にメーカーの広告活動をサポートするようになってきています。

近藤
まさにリテールが広告代理店の役割になってきているということでしょうか?

西本先生
はい、その通りですね。クリエイティブも内製化する小売(リテール)も多く出てきていますので、いわゆるクライアントの課題に対してマーケティングとクリエイティブを提供していく総合広告代理店というような従来型の広告ビジネスの形が変わってきていますね。ビジネスとしてのゲームチェンジが起きている状況ですね。

近藤
やはりその背景には「データ」があるからこそ起きている事象なんですね。ただ、消費者側からすると自分たちの情報が都合よく使われるという印象を持つ人もいますよね。

西本先生
そうですね。そういう点で消費者が二極化するかと思っていまして、自分たちのプライベートな情報も線引きして多少は渡していかないと、消費者にとってデジタル社会の便益が享受できなくなってきていますよね。ある程度のプライベートな情報は「公共性」を持つものとして渡してもらえるよう、企業も透明性を高くして信頼してもらえるような存在になっていく努力が今後ますます必要になってきます。

近藤
確かに提供できる情報は出していかないと我々消費者が不便になっていきますよね。
デジタル社会の今、データを渡す側の考え方もアップデートする必要がありますね。
リテールメディアのお話がありましたが、なぜリテールが広告代理店としての役割を担いつつあるかという点では、データがしっかりと整理されていて使いやすいような状態にされているからこそ機能しているのかなと思いました。そういう点では、データを保有してきちんと使える状態に整理している企業がメディア化してくるのでしょうか?

西本先生
その通りだと思います。データだけではなく様々なツールも簡単に手に入るようになりましたから、それぞれがハウスエージェンシー(広告宣伝活動の内製化)になっていく印象を受けますね。

近藤
データを保有できるようなビジネスモデルを持っている会社にとっては自社で使うだけではなくて、そういったメディアとしてだったり、他社さんに利用していただくという観点でデータを整理したりとか、構造化することが必要になりますね。

西本先生
今では企業がそのようなビックデータを持てるようになってきましたが、ここ10~15年くらいはデータをどうやって自社に抱え込むかっていうことで四苦八苦してきました。次はそのデータで「会社脳」をどう作るかというフェーズだと思います。要は自分たちの今まで培ってきたノウハウをどうAIに学習させようかという課題ですよね。良いAI、つまり良い会社脳を持たないと次の競争優位性は獲得できにくくなっていくと思いますので、どの企業も考え始めていることはよく聞きます。

近藤
「会社脳」ですが、非常に面白いですね。その会社脳を先駆けて作るべき業界業種はありますか。

西本先生
業界業種はないですが、一つ言えるのは大きな会社ほど「会社脳」を作るべきだと私は思います。なぜかというと、人材の流動性が激しい世の中になってきて大きな会社ほどプロパー社員と中途社員が混じり合います。この時に起こるのが「歩調が合わない」という問題です。プロパー社員と中途社員では、意識や組織へのコミットメントも違うのでチームとしてプロジェクトを遂行していくことが非常に難しくなります。結局、良いチーム、良いインプットがないと良いアウトプット、ブランドにはなっていきませんので、チームビルディングをどうするかという悩みを抱えている大企業ほど「会社脳」を作った方が良いです。「会社脳」があれば、それが一つのベクトルになり、企業文化を反映したベクトルを与えてくれるので、チームビルディングにおいてパワフルな存在になっていくと思いますね。

近藤
先生がおっしゃるように一朝一夕ではできないですし、良い組織ができないと良いマーケティングができないんですよね。マーケティングもデータの蓄積ですので、その蓄積をAIに学修させて「会社脳」に置き換えられるんじゃないかって非常に興味深いお話ですね。
すごく勉強になりました、ありがとうございます。