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データサイエンスから考える顧客体験マネジメント(セレンディピティ)
産学連携 |
当社データサイエンス事業のアドバイザーを務められている多田伶先生にお話をお伺いいたしました。多田先生は、横浜国立大学の准教授として「マーケティングリサーチ」「消費者行動論」などを専門としてご研究されております。
本インタビューでは、「顧客体験マネジメント(セレンディピティ)とデータサイエンスの関係」についてお伺いいたしました。
近藤
早速ではございますが、現在のご研究について教えていただけますか?
多田先生
はい。現在、二つの軸で研究を進めています。ひとつは、テキストデータからマーケティングのインサイトを発見する研究。もうひとつは、CXと訳される顧客体験に関する研究です。特に注目しているのは「セレンディピティ」という概念で、これは消費者が企業の製品やサービスと予想外の発見をすることです。企業がどう働きかけると消費者が偶然の発見をするかはとても大切であり、こうした偶然の気づきが消費者行動に与える影響はマーケティングで注目されています。
近藤
それを数値化することは可能なんでしょうか?
多田先生
アンケート調査で消費者にセレンディピティの質問へ回答してもらう方法で、測定できますね。
近藤
データは企業と一緒に取得しているのですか?
多田先生
はい、現在はエイチ・ツー・オー リテイリングの皆様と共同研究を行っています。また、日本酒の地酒メーカー、大丸松坂屋百貨店のマーケティング事例を調査しています。
近藤
マーケティングも、以前はメールマガジンなどで接触回数を増やすことが重要とされていましたが、偶然の発見ができれば、現代の消費者に響きそうですね。
多田先生
その通りだと思います。サブスクリプション・サービスのレコメンデーション機能が代表的ですが、こうした偶然の出会いがあると、消費者の満足度やロイヤリティが高まります。崎濱先生
具体的にどのようにして偶然性を作り出すのですか?
多田先生
たとえば、サブスクリプション・サービスでは、これまで消費者が知らなかった製品やサービスを紹介することで、偶然の出会いが生じます。
崎濱先生
セレンディピティ研究は進んでいるのですか?
多田先生
元々、セレンディピティは情報学や機械工学の分野で注目されてきました。2021年にマーケティングの学術雑誌 Journal of Marketingでセレンディピティの論文が発表されて以降、マーケティング分野でもセレンディピティ研究が増えています。
(セレンディピティの参考論文)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/00222429211000344
崎濱先生
私もよく行く焼き鳥屋で流れていた音楽がきっかけで新しいジャンルを知り、ライブにも行くようになりました。それもセレンディピティの一種ですね。
近藤
セレンディピティの演出にAIレコメンデーションは使われているのでしょうか?
多田先生
はい、AIレコメンデーションに注目した研究があります。
近藤
ネットマーケティングはどうしても「刈り取り」的な印象がありますが、セレンディピティを演出したいという要望は多いのでしょうか?
多田先生
個人的な見解になりますが、ネットマーケティングでは、顧客満足度を指標として使いますよね。しかし、満足している顧客でも簡単にブランドを乗り換えてしまう現実があるため、驚きや偶然性といった要素が重要だと考えています。顧客体験(CX)の研究も、これらの要素に価値を見出しています。ブランドに対する「驚き」や「偶然の発見」がなければ、顧客満足が次の購買に繋がらないことがあるからです。
近藤
インバウンド観光にもその発想が活きるかもしれませんね。地方の観光地に、なぜここに?と驚くほどの外国人観光客が集まる現象も見られますし。
多田先生
日本中に多くのマーケティング資源があります。人口減少や飲酒離れが進む日本酒市場において、地酒メーカーは若者に新たな価値を与える顧客体験マネジメントを行っています。
崎濱先生
焼酎も似た状況ですね。ある焼酎メーカーが、フラミンゴのラベルを使い、異なる風味で大ヒットしました。ラベルのデザインや独特の香りに工夫を加えたことで、落ち込みつつあった市場で人気を博しています。さらにシリーズ展開で新たなファン層も獲得しているそうです。
近藤
そうした突破口として、偶然の出会いを演出する研究が業界全体に新しい可能性をもたらすのかもしれませんね。
多田先生
百貨店業界も従来のビジネスモデルにとらわれず、変革が必要です。大丸松坂屋百貨店は「感動共創」を2030年度に目指す姿の1つとしています。各店舗が驚きや感動を提供する場になることを目指されていて、業績も好調です。
近藤
その考え方は、他の業界にも応用できそうですね。
多田先生
はい。多くの業界でセレンディピティの考え方を応用できると思います。
近藤
百貨店以外にも適用できる場面がありそうですね?
多田先生
たとえば、航空業界でも驚きや感動を与える取り組みが進んでいます。セレンディピティをプロモーションに適用し、旅の行き先がランダムに決まる切符を発売し、大きな人気を呼んでいます。
多田先生
最近、インターブランドジャパンも「顧客体験ランキング」を発表しています。帝国ホテルが1位、サイゼリヤが2位、ファンケルが3位という結果からも、業界を問わず顧客体験マネジメントが求められていることがわかりますね。
(顧客体験ランキングの記事参照)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000157.000000092.html
近藤
確かに、物が溢れる時代だからこそ、驚きがないとお客さんを惹きつけられないのでしょうね。
崎濱先生
今や感動の奪い合いのような状況ですね。
多田先生
データサイエンスとも関連しますね。口コミから感動スコアを算出したり、消費者の表情から驚きや喜びを測定することが可能です。感動体験を数値化することで、企業は体験価値の向上に役立てられます。
近藤
従来の「顧客満足度」という指標から、別の指標も注目されているということですね。
多田先生
顧客満足度は結果としての側面が強く、「どうしたら満足度が上がるか」が見えづらいという課題があります。一方、体験価値の向上に注力することで企業にとっての具体的なマーケティング・マネジメントの指針が得られます。
近藤
最近、新しいホテルも続々と登場していて「顧客満足度」の高さをうち出していますが、他の体験に基づく評価をする余地もまだまだ広がりそうですね。
多田先生
顧客体験の研究は多いですが、データサイエンスと顧客体験を掛け合わせた研究は少ないです。企業のマーケティング事例を分析したり、アンケート調査で顧客体験を測定する尺度開発の研究は盛り上がっていますが、データサイエンスを応用した新しい視点は未開拓の分野ですね。
近藤
マーケティング調査も進化してきますよね。
崎濱先生
10〜20年後にはアンケート調査がなくなる可能性もあると思います。生成AIによるペルソナが神経反応レベルで作成され、データ精度が向上すれば、アンケートに頼らなくても消費者理解が可能になるかもしれません。
近藤
多数のペルソナが生成されれば、統計調査と同等の信頼性を持つでしょうね。中小企業に向けて何か有効な方法や、先生に相談したいときの切り口はありますか?
多田先生
驚きや感動をマネジメントする視点や、AI時代における「定性調査」の重要性は増しています。インタビューやフィールドワークといった定性的なアプローチも今後注目されると感じます。データサイエンスによる定量的なアプローチと定性的なアプローチを組み合わせながら、さまざまなご提案をしたいと考えております。
近藤
BtoCマーケティングは確かに同じ手法を使う企業が増えて過当競争になり、定性調査を用いたアプローチは差別化の鍵になりそうです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
この記事を書いた人
株式会社ココエ
株式会社ココエは、「変わらないを変える」をミッションに掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、すべての企業が新しい事業価値を創造できる世界を目指しています。この目標に向かって、私たちはデータサイエンス・AI事業やマーケティング事業を展開し、革新的なソリューションを提供していきます。
この記事を書いた人
株式会社ココエ